笹山市長の「神戸空港」説明

原題「人・物・情報が集まる街〜神戸の力を持続・発展させるため」
1998年11月1日「広報こうべ」より転載
−今は、被災者の生活再建や震災復興を最優先すべき時であり、なぜこの時期に空港を進めるのかという声も聞きますが
市長 まず、被災者の生活再建か空港かという、二者択一の議論はおかしいと申し上げたい。生活再建は、これまで緊急課題として全力で取り組んできており、着実に進んでいます。例えば、仮設住宅にお住まいの方の恒久住宅への移転は、ほぼめどがついてきていますし、被災者への自立支援金も今月から支給されます。また、福祉についても可能な限り計画を前倒しして進めています。
 しかし、市民生活を支える神戸経済は、不況の影響もあり、震災前の八割程度の復興にとどまっていると言われています。このまま何もしなければ、神戸のまちは衰退していきます。まちの力がなくなれば福祉や教育などのレベルも維持できなくなってしまいます。
 私は市長として単に現在の神戸に責任を持つだけでなく、将来の神戸にも責任を負っており、子どもや孫の世代が安心して働き、住めるまちづくりを進めることも、私に課せられた責務だと思っています。
 震災と不況で落ち込んだ神戸経済を立て直し、神戸のまちを復興させるために空港は是非とも必要です。
 さらに、空港は、人・物・情報が出入りする神戸の新しい玄関として、将来の神戸に活力と魅力をもたらし、子どもや孫の世代に働く場を生み出す財産にもなります。
 このように、空港は、神戸の将来像をどう描くかという長期の事業でもあるんです。

「空の時代」に不可欠
−神戸の復興、発展のため空港が必要であるということですが、なぜ、空港でなければいけないんですか
市長 交通機関の発達で、私たちは「早さ」「手軽さ」を求めています。それに伴い、航空機の利用者は年々増えています。規制緩和も進み料金が安くなったり、地方空港でも国際線のチャーター便が飛んだりします。
 また、飛行機に乗らないからいらないという方もいらっしゃいますが、船を利用しないから港がいらないという話は聞きません。新幹線や高速道路も同じです。たとえ自分が利用しなくても、私たちは、物流で経済的な恩恵を受けているんです。日本の貨物取扱額では、今や神戸港や横浜港ではなく成田空港が一番となっています。新鮮な生鮮食料品や花き類などは、空港を経由して毎日の食卓をにぎわしているんですよ。
 まさしく「空の時代」がきているんです。
 ところで、神戸は都市であると同時に都会でもあります。この都会という言葉には「会う」という字が含まれていますね。つまり、人にあって話をする、情報交換をする。それによって活性化するのが都会なんです。用事がなければ人は来てくれません。そのためには、働く場所も必要になります。これまで、神戸は港町として発展してきました。しかしファッションや情報、研究開発といった業種も含めて産業構造の転換を迫られており、その中で医療や健康の産業・研究拠点を目指す「医療産業都市」構想を発表しました。緊急時に空港があれば、患者や医師、医療品、機器などを迅速に運べます。
 さらに、海、陸、空の連携ができ、人・物・情報の新しい流れを作り、市民の皆さんに様々な仕事を提供するなど神戸の産業発展に大きく寄与します。また、神戸は直接間接あわせて、全体の約三割が観光産業に関連しており、空港は集客力のあるまちづくりに大きな力となります。

身近な都心型空港
−神戸の周辺には関空や大阪空港があり、もう十分だという意見もありますが
市長 先程も言いましたように、飛行機を利用する人は毎年増えています。現在、市民の皆さんにとって関空はやはり地理的に遠いことは否めないと思います。また、大阪空港は、周辺の環境対策から一日の便数などに制約があり、今後とも増えていく需要に対応するのは、難しいと思われます。神戸空港は、何よりも市街地から非常に近いと新型空港として、三宮からポートライナーで十六分ほどで行けます。こういった例は、外国ではたくさんあり、空港というのは駅のような身近で便利な存在です。
 それと、繰り返しになりますが、神戸の復興や活力と魅力をもたらすものとして空港は必要なんです。

市民に負担かけずに資金調達
−空港建設には、約三千百四十億円かかるそうですが、財源はどうするんでしょう。税金が上がったり、福祉などが削られたりするんではないかと言われていますが。
市長 そもそも税金の計算方法は法律で決められており、自治体で勝手に変えられないんです。空港建設のために税金を上げたり、あるいは福祉や教育を削るなんて、とんでもない話です。
 別にお金を借りて空港をつくっていきます。もちろん、借りれば返さなければいけませんが、それは土地を売るなどして返していきます。市民のみなさんに負担はかけません。
 また、空港ができることによって新たに空港関連産業が生まれてきます。雇用が増え、従って市の税収も増えます。ここで得られた収益を市民の皆さんに還元していく考えです。

環境には十分な配慮
−海を埋め立てて空港を建設する計画ですが環境への影響はないのでしょうか。
市長 もちろん皆さんの生活環境に支障がないよう綿密な計画を立てています。騒音の発生を未然に防止するために、海上空港として計画しているんです。航空機に関する技術は非常に良くなっており、昔に比べて騒音は、随分低くなっています。埋立工事は、環境保全に十分配慮していきます。例えばコンクリートで囲むのではなく、緩やかな石積とし、自然に近いものをつくるなどしていきます。

長年、時間かけ市会で審議
−空港建設の賛否を問う住民投票という運動が具体化していますが、どのように思われますか?
市長 現行の地方自治制度は、議会制民主主義が前提にあり、住民投票制度は、それを補完する手段のひとつであると承知しています。この運動が計画の構想段階ならわかるんですが。
 しかし、空港建設は、昭和五十七年に構想を発表して以来、市会においても、その都度審議され、その結果、着工に向けての議決をいただいており、また平成九年二月に国から設置許可を受けました。
 この間、経緯や計画などは、これまでも機会があるごとに市民の皆さんにお知らせしてきました。
 このように、空港計画は長年時間をかけて論議してきた事業であることを、市民の皆さんに理解していただきたいと思っています。
 また、これからもわかりやすい広報の充実に努めて行くつもりです。

笹山市長の「住民投票否決・推進決議採択」説明

原題「空港推進の決議を尊重し手続きを」
1998年12月1日「広報こうべ」より転載
臨時市会に提案
 十一月二日に、「神戸空港」建設の是非を問う住民投票条例制定の直接請求を受理し、この条例案を第二回臨時市会(十一月十二日〜十八日)に提案しました。
 私は、法律に基づき条例案に添えた意見書の中で、まず、震災から一日も早い復興に向けて市民とともに全力をあげて取り組んできており、その結果、生活再建は着実に進んできていることを申しあげました。
 これからの取り組みと併せて、神戸の力を持続・発展させるために、また、震災と不況で落ち込んだ神戸経済を立て直し、神戸のまちを復興させるためにも空港が必要であることを述べました。
推進議決に基づいて
 空港計画は、従来から市民の代表である市会に諮りながら進めてきました。必要性など十分に議論され、その結果、平成二年に全議員の提案により計画を推進する決議がなされ、さらに、平成五年には、国において新規事業に位置づけられるなど、一つ一つ順を追って手続きを行ってきました。
 住民投票は、間接民主制を補完する手段の一つであると認識していますが、構想段階ならともかく、このように推進の意思形成を終えている現在の状況のもとで、改めて建設の是非を問う住民投票条例は、制定する必要がないという考えを明らかにしました。
市税を使わず建設
 さらに、私は、審議の中で(1)空港計画は、総合的で長期的な判断が必要であり、しかも、市民の意思を反映するためには、単純に賛否だけでなく多くの選択肢を必要とするので住民投票にはなじまないこと、(2)空港の建設はもちろん、空港ターミナルや、空港への交通手段となるポートライナーへの出資には、市税を使わないようにすること、(3)今後とも、情報開示に努め、市民の疑問に答えるなど広く理解を得られるように努めること、などを明らかにしました。
わかりやすい広報に努力
 市会では、住民投票の実施の是非や神戸空港の必要性・財政計画などについて時間をかけて、慎重に審議され、その結果、十一月十八日の本会議で、住民投票条例案は否決され、また、神戸空港の推進に関する決議がなされました。
 私としては、改めて空港推進の意思が確認されたものと受け止めており、これを尊重し手続きを進めてまいります。
 今後とも、神戸空港について、より一層ご理解いただけるよう、わかりやすい広報に努めてまいります。
風見鶏 >> 神戸空港を考えよう >> 広報こうべ98年11月号、12月号