緊急斜説

最終更新:1997年7月25日
Making of 流言飛語  とうとう、政府が動き出した。
 「報道に行きすぎがあった」としてテレビや雑誌の報道をある程度規制することを検討し始めたのである。
 これは憲法で保証される「表現の自由」に踏み込むことである。まあ、新潮社のように改憲を考えている出版社には、現憲法を守る必要はないのかも知れないが・・・
 政府をそこまで動かしたのは、これまでのマスコミの行きすぎ報道の反省が一つもなかったことにあるだろう。
 それは「松本サリン事件」のマスコミによる「えん罪」事件から受け継がれた「垂れ流し報道」が、今回にも残っていたと言うことである。

◆マインドコントロールの恐怖◆
 もし、事件が長期化すれば、おそらく、この事件も「松本サリン事件」のようにマスコミ達は無関係な実在の人物を犯人に仕立てていただろう。
 幸いにも、今回は容疑者をでっち上げるような報道はなかったが、明らかにそれに近い報道が行われていたことは事実である。
 「30〜40歳代、体格はガッシリ型」
 一体、マスコミは誰を容疑者として追っていたのだろう。しかも、それが一人歩きし「目撃者」が、あたかも、その男を目撃したかのように思いこませたのも事実である。
 (あるいは「南京錠の男」のように実在の人物を「不審人物」と見ていた)
 今回の「流言飛語」は、左の図式で起こったものなので、マスコミから情報を消費したあなたも自戒しながら、ご覧いただきたい。

◆的外れな攻撃◆
 次に、マスコミから情報を消費した視聴者、読者に対し、改めて反省を促したい。もちろん、私たちも自戒しながら、自分たちの意見を述べさせていただく。
 岡山県のパソコン教室経営者がインターネット上で「酒鬼薔薇」の文字を見たという目撃証言が一斉に伝えられた。
 「風見鶏」では6月18日時点で、インターネットの「酒鬼薔薇」文字の羅列は目撃者の見間違いによるものとして、記事を発信した。 
 問題のページを開設した人物サイドからの情報と、全く別のルートで入ってくる捜査本部サイドから漏れた情報が一致していたため、編集部では「見間違い」として取り扱った。
 だが、その後もワイドショーを中心に、この一件を取り上げ続けた。
 しかし、この目撃者の男性。本誌入手の情報では、マスコミの取材で、大阪の「目撃者」と共に、「酒鬼薔薇」ページ開設者は「麻薬密売人」「クラッカーだ」などと言っていたという。
 マスコミ各社はその部分をオフレコとし「インターネット」の部分だけを抽出して報道し続けた。
 (この目撃者の発言は、マスコミ関係者から、ホームページ開設者と疑われていたK氏の耳にも入っている)

 結局、逮捕直前に一部全国紙が誤報と報道して、一件落着と思いきや、後日談があった。
 マスコミに登場した岡山県の目撃者に対する誹謗、中傷がインターネット上で飛び交っているのである。
 この目撃者によると、一部のチャットで「テレビ局から金をもらって誤報を流した」「前科一犯」「虚言癖」などと書きこまれたそうだ。
 ここで書くことでもないが、目撃者に対して、他人が開設したチャットで匿名で行われる会話で特定個人を攻撃するのは、どうかと思う。
 しかも、この目撃者を誹謗、中傷する輩もマスコミの情報に踊らされていたのだから、自分たちも反省した上で、論理的な検証を行ってほしいと願う。

◆本名と顔写真◆
 個人的には被害者の名前が明らかになっている殺人事件の「犯人」(容疑者ではない)は、少年であっても成人と同様に扱うべきだと思っている。
 人の命を殺(あや)める行為に大人も子供もない。また精神耗弱の者が人を殺しても同様である。だいたい、人間社会で人間を殺したことについて厳しい社会的制裁を加えるのは当然のことではないだろうか。 (人殺しをしたことがないのでわからないが、人間が人間を殺す瞬間の精神状態は「普通の精神状態」ではないと思う)
 こういうことを書くと「家族の人権はどうなるのか」という論議になるが、それは少年であっても大人であっても同じである。成人で逮捕された宮崎勤被告の家族のその後を見れば、わかるだろう。
 もちろん、家族は犯罪とは無関係であり、無関係な人の人権に配慮する必要はあるし、今後も論議していかなければならない。
 しかし、今、話題になっている某週刊誌が公表した顔写真は、このような意見とは別である。
 須磨警察署の3階にいる少年は今日(7月5日)現在「容疑者」なのだ。つまり現段階では(法的に)犯人とは決めつけられないのだ。
 「松本サリン事件」でも、すべての人が第一発見者を「犯人」と見ていた教訓として、慎重に考える必要はある。
 だが、この週刊誌、きれい事の大義名分をぶちまけているが、この写真が掲載されている号は、通常の2倍の部数を印刷していたのだ。
 つまり、落ち目になっている週刊誌の売り上げを伸ばすために発表したものなのだ。これは「儲け主義」の何物でもない。
 しかも、この雑誌は販売部数が、後発誌である金曜日発売のあの雑誌よりも、遙かに少なく、部数を減らし続けている。出版業界では「あの雑誌は年内に廃刊する」という噂が流れるほど危機的な雑誌だった。
 こうした事実がある以上、この雑誌の愛読者は、出版社が言っている少年法改正論議とは、まったく別の次元で顔写真を発表していることを知っておいてほしい。
 結果として、少年法61条で少年の氏名や顔などを出版物に載せてはいけないと定義しているにもかかわらず、罰則規定がないなど、この法律の欠陥が浮き彫りとなる形になったが・・・。
 本当に「凶悪犯罪を許さないため」なら、法的に「容疑者」段階で掲載することはないだろう。
 「写真を掲載するな」と言っているのではない。少年法改正については時間をかけて論議しつくした上で考えればいいことである。この雑誌の場合、公表時期の早さを考えても、他社を意識していることが露骨にわかる。
 しかも、現行法では、どんなに最悪でも、この少年は2〜3年で社会復帰する。この少年が完全に更生したとき、今度は、この記事がきっかけで社会復帰が出来なくなった場合、誰が責任を取るのだろうか。その挫折感からまた、凶悪な犯罪に手を染めることも考えられる。更生後、新潮社で彼を雇うのなら、今回の措置は構わないと思うが・・・
 また、今すぐ少年法が改正されても、法律には「不遡及の原則」というものがあって、原則として、改正前の犯罪には新しい法律は適用されない。
 だから、政府から「言論統制論」を突きつけられるのである。本当の「言論の自由」や「表現の自由」はマスコミの利益のためにあるのではないのだ。

◆ホラービデオ規制論はマスコミの言い訳である◆
 自分たちの「表現の自由」が政府から規制されようとすると、すぐに怒るくせに、マスコミでは殺人の引き金になったとされるホラービデオを規制しようという論調をしているではないか。
 これは、自分たちの報道が正しいと開き直っているようなものである。まるで自分の名前を読み違えられたと激怒しつつも、手紙に誤字の多かった酒鬼薔薇聖斗と同じ思考回路ではないか。
 これからの時代、読者・視聴者も賢い情報の消費者にならなければならない。酒鬼薔薇聖斗と同じ思考回路を持つ人がマスメディアには多くいるので、何も考えずに情報を消費すると、あなたも酒鬼薔薇聖斗になってしまうかもしれない。マスコミに携わっている人の多くは、運良く(?)殺人に走らなかったから、マスメディアで働いているようなのものなのだ。(←このコメントは売れないフリーライターのひがみが半分ほど入っているので、軽く読み流してね)

 閑話休題。特にワイドショーは主婦向けに放送されているのだから、容疑者像の推理ばかりをするのではなく、事件の再犯を防ぐために「どのようにして凶悪犯罪から子供を守るべきなのか」を徹底的に討論してほしかった。
 今回の事件では数あるワイドショーの中で、この見地に立った報道をしたのは6月16日のフジテレビ系「おはようナイスデー」だけである。
 本誌のワイドショーウォッチャーをしてくれている某氏によると「テレビ報道のほうが、ホラービデオよりも有害」だという。
 「ワイドショーを見終えると気分が悪くなることがある」そうだ。
 もし、容疑者が、ナイフではなく切手を、ホラービデオではなく「ドラえもん」や「アンパンマン」のビデオを集めていて、犯罪関連本ではなく「精神医学書」ばかりを読んでいたとしたら、ワイドショーは彼をどのように論調するのだろう。
 ワイドショーウオッチャー氏の推論では、おそらく「切手のような小さな印刷物にしか興味を示さないのは異常者の証拠」「中学生になってもドラえもんなどを見るのは異常」「精神医学書は中学生が読む本ではない」と福島章氏あたりがコメントを出し、岸部四郎氏あたりが仏頂面で「アニメビデオを見る年齢を制限するしかない」と言っていただろうとのこと。
 あと、この容疑者が14歳の女性だったら、どのように報道し、情報の消費者である私たちはどのように受け止めていただろう。

 最後に、この「斜説」を読み「面白い読み物だった」と思っているあなた。あなたが一番、メディアに毒されていたんですよ。反省するように!! もちろん私たちも…

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